カイワレ大根の菅直人は、ごまドレッシングが嫌い(笑)

反射鏡:菅さんは人望がないというのは本当か=論説委員・野沢和弘
毎日2010年12月26日

 菅直人首相は最近ひとりで昼食を取ることが多いらしい。以前は秘書官や党幹部と一緒だったが、難しい問題に政権が見舞われるようになってから官邸の執務室にこもって食事をするようになったという。

 それで思い出した。1996年夏、病原性大腸菌O157騒動が連日のように新聞やテレビで取り上げられていた。厚生省(当時)は大阪府羽曳野市の農園が生産し出荷したカイワレ大根が「原因食材として最も可能性が高い」と発表、カイワレを店頭から撤去するスーパーや小売店が続出した。

 厚生省は懸命に過剰反応を抑えようとしたが、いったん広がった騒動はなかなか鎮まらない。当時大臣だった菅さんがカイワレ大根をカメラの前で食べるパフォーマンスを見せ安全性をアピールすることになった

 が、そのカイワレがない。若手官僚が10人以上かり出されて東京都内のスーパーを探し回ったが、どこに行っても見つからない。猛暑の中、汗をかきながらカイワレを探し回るエリート官僚たちを思い浮かべるとこっけいだが、業界団体にとっては死活問題である。

 結局、都内では見つからず農林水産省の売店を通して埼玉県から取り寄せた。いよいよ大臣室にカイワレが山盛りの皿とサラダボウル二つが用意された。記者やカメラマンを招き入れようとした時だ。テーブルにあったドレッシングを見た菅大臣の顔が曇った

 「ゴマは好きじゃない。しょうゆドレッシングにしてくれ」

 ネクタイにワイシャツ姿の菅大臣、15分で3パックのカイワレを食べた。「なかなかピリッとしてうまい」と笑顔をふりまいたが、猛暑の中を駆け回ってきた官僚たちは言葉が出なかったという。カイワレを探し回った官僚の一人は言う。「安全をアピールするのが目的なんだから、ゴマでもしょうゆでもいいじゃないですか。小泉(純一郎)さんだったら黙って食べてくれたと思いますよ」

 未知のリスクにどう対処するかは難しい。環境や人体に重大で不可逆的な影響を及ぼすおそれがある場合、科学的に因果関係が十分に証明されなくても行政による規制をすべきだというのが「予防原則」の考えだ。当時の厚生省は「断定はできないが、予防の見地から情報公開の必要がある」と主張した。

 しかし、それによって打撃を受けた農園や業界団体は厚生省を相手に損害賠償を求めて訴訟を起こし、8年かかって国の敗訴が確定した。薬害エイズを解決に導いた菅さんだったが、O157騒動はほろ苦い経験をしたというわけだ。

 刻々と事態が進行していく中で判断を迫られる為政者の苦悩や孤独は察するに余りある。尖閣諸島での中国漁船、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)、小沢一郎氏と政治倫理審査会、来年度予算編成……菅首相が誰とも顔を合わせずに昼食を取りたくなる心理もわからないではない。ただ、ピリピリと神経を張りつめ余裕のない時にこそ素顔は現れる。何気ないひとことに本質が透けて見えたりするものだ。人望とは意図して作れるものではないから難しい。

 厚労官僚に人望がないという点では長妻昭前厚生労働相であろう。在職中はことあるごとに省内から批判や不満が漏れてきた。上司として仕えるのはどちらが良いか、くだんのカイワレの官僚に聞くと、すぐに答えが返ってきた。

 「それは菅さんでしょう」。部下に対して少々厳しくても、人間性に問題があっても、理念がしっかりあってやりたいことが明確な上司なら官僚は本能的に仕事をするという。

 今の菅さんに「理念」や「やりたいこと」が明確だとはとても思えないが、たしかに鳩山政権の時と比べたら厚労省の力の入れようは格段に違う。主要閣僚の秘書官にはエース級の官僚を付け、省を挙げて社会保障の立て直しに臨もうという意気込みは感じる。それだけ社会保障が断崖絶壁に立たされているということでもある。

 菅さん、ここは正念場だ。世界の先頭を走る高齢化はこれからが本番である。基礎年金の財源はすでになく、医療も介護も破綻寸前。このままではこの国の社会保障は終わってしまう。

 好きじゃない上司とでも「理念が明確なら仕事はする」という官僚を存分に使いこなして危機を乗り切るべし、である。

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